働く女性の増加やインターネットでの新しいサービスの登場という環境変化や、巣ごもりなどの社会現象が大きく影響しているのは間違いないところだが、そうした環境やライフスタイルへの対応やネットテクノロジーの活用、緻密(ちみつ)な顧客との関係構築など、マーケティング施策の成功によるところも大きい。
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かつて、「化粧品は対面販売でなければ売れない」と言うメーカーが多く、カタログや折り込みチラシで売る商品はどちらかといえば怪しげな商品だとされた時代もあった。また、消費者と売り手側のトラブルが絶えず、訴訟や当局の介入にまで至るケースも少なくなかった(現在でもダイエット商品や美白商品などのトラブルは絶えないが)。実際、2001年ごろの、コンサルティング業界各社の論調では、大半が先行きの困難さを示していた。
2001年といえば、通販業界でもeコマースがようやく市民権を得始めたころで、その可能性に大きな期待が寄せられていた。ただ、「全体のシェアは5%にも満たない状況であり、今後拡大していくには、幾多の課題を解決しなければならない」とされていた。具体的には、カタログ通販という一見アナログチックな手法の中で、インターネットマーケティングの真骨頂であるCRMを実践していくのは簡単ではなく、いかにIT投資によって、来たるべきネット社会に対応するかというのが多くの論調だった。
※CRM……Customer Relationship Management。情報システムを応用して企業が顧客と長期的な関係を築く手法のこと。
それから約10年、化粧品通販業界は着実に成長を遂げてきた。特にインターネットにおけるマーケティングには早くから取り組んできた。
DHCはネット広告での扱い高がトップクラスの1社に数えられた時もあったほどで、各社がネット広告への模索をしている段階で、すでにブランディングの確立をネット広告主体で組み立てていた。また、@cosmeに代表される口コミサイトやドクターシーラボが成功例とされるCGM(顧客発信型マーケティング) への取り組みなど、いわゆるWeb2.0的なインタラクティブ性を持ったマーケティングを化粧品通販業界はいち早く取り入れてきた。
●ネット販売と店舗での販売をうまく両立
かつてインターネットによる通販が生まれ始めたころ、ブリック&モルタルと呼ばれた店舗販売のスタイルに対し、店舗販売と無店舗販売を「クリック&モルタル」と呼び、ネット販売と店舗での販売をうまく両立させていくスタイルが提唱されたことがあった。この古くて新しい概念を、最も活用している1つの業界なのが実はこの化粧品通販業界だ。
もちろん、対面販売としての良さはたくさんあり、商品によってはコンサルティング的なアプローチが必要な商品も少なくない。そうした提案型商品は、お客様に実際に足を運んでもらい、ショッピングモールや専門店街での店舗を中心とする店舗で1対1の提案?販売を行う。しかし、顧客への告知はデータベースによって地域、ターゲットごとに案内されるようにするので、顧客はリアル店舗のサービスとネット通販の利便性を好きなように選択できる。
今話題の「フリーミアム」のスタイルもこの業界お得意の手法だし、古くから行われている伝統的な見込み顧客開発手法だ。この「フリーミアム」のモデルも経験を重ねることで、他業界よりも一歩も二歩も先を行く。
「お試し商品」といっても、現在は無料のところはほとんどない。無料だと、いわゆる「無料商品コレクター」のみの顧客データとなってしまうことが多く、見込み顧客「数十万人」を獲得しても、未来永劫見込みのままという状態になりかねない。
よって1000円?2000円の「見込み商材」を用意し、折り込み広告やネット広告で集中的に訴求する。また、新規顧客のみしか購入することはできないシステムを構築し、オンライン広告を駆使し、純粋の見込み顧客開拓を狙う。さらに今ではすっかりeコマースの新規開拓の定番となったアフィリエイトだが、この手法も化粧品通販での導入は早い。
不思議な現象の1つに、これだけのネットへの投下、IT投資にもかかわらず、通販全体と比較しても、ネット通販の割合は高くない。多くの通販企業が、インターネット通販のウェートが50%を超える中、化粧品通販業界でのインターネット(モバイルを含む)の販売比率は27.2%にすぎない。
この事実は、それだけカタログ販売での顧客との関係構築基盤が磐石であることを示していると思う。これまでのノウハウを生かしながら、新しいマーケティングアプローチに取り組み、新規顧客、新規市場を取り込むという理想的なマーケティングアプローチの証ではないだろうか。
こうした取り組みは、数々のヒット商品を生む。オールインワンタイプの商品やミネラル系商品、あるいはメンズ商品に至るまで、毎年のようにヒット商品が登場する。大メーカーのような大ヒットはないものの、確実に収益を伸ばしている。百貨店などを中心に「マス広告」のみに頼ってきた他メーカーとは明らかな違いだ。
これからも化粧品通販業界のマーケティングに注目したい。(猪口真)
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